―――まずは悪い芝居結成15周年おめでとうございます。

山崎彬:ありがとうございます。

―――今年で悪い芝居は15周年を迎えるということで、恋と暴動の悪い芝居新作二本立て本公演として、『野性の恋』と『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』という二本の新作を同じ劇場の同じ舞台美術で交互上演するということなんですけれども、そもそもの悪い芝居の結成のきっかけをお伺いしてもいいですか。

山崎彬:僕は大学で演劇を始めて、卒業したあとは役者を続けようと思ってて。それで卒業の時に最後に卒業公演っていうのをやろうって話していたんですが、作・演出を頼もうとしてた人の都合が合わなくて、で、仕方なく僕が作・演出をしてやってみようってことになったのがきっかけで、そっから脚本を書いて演出して舞台を作るようになりました。

―――その時から悪い芝居だったんですか。

山崎彬:もともと劇団にしようとは思ってなくて、その卒業公演のチーム名というか、それを「悪い芝居」と名付けたんです。理由は、はじめての作・演出で観てもらうのが怖くてハードルを下げるため(笑) その時の感触っていうのが僕的にもとてもよくて、そこから1年くらい経ってから劇団としてやっていくことになりましたね。

―――それから15年続きましたけど、15年続くとは思ってましたか。

山崎彬:あまり思ってなかったですね。時間があればやる、時間があればやるってのを続けてたら、雑誌に載ったり、いろんな劇場から呼ばれたり、 お客さんに応援してもらったりして、それでメンバーも募集して仲間が増えたりとかして、気づいたら15年って感じ。やめるとも続けるともなくここまできたので、この先もそんな感じで続いていくんじゃないかなと思ってます。

―――今現在のメンバーというのは旗揚げメンバーでは無いじゃないですか。植田さんが2007年入団で一番古く、その後2011年の入団メンバーと2016年の入団メンバーで構成されていますよね。色んなメンバーの入団も退団も経て色々なメンバーが入れ替わってきたと思うんですけど、今このメンバーだから出来る事ってどういう風に今考えてますか?

山崎彬:元々、旗揚げメンバーってのはいないんですね。旗揚げたつもりもなかったので。で、今のメンバーは、悪い芝居を数年ぐらいやって劇団としてある程度東京公演とかをやったりとか色んな経験を積んできた上で入ったメンバーが中心です。僕自体は、その時その時に出てくれている人達で作れるものってのを書いてる感じです。今のメンバーの強みっていうのは、それそれが個性が違うみたいなのはすごく感じますね。それでも足りないところを客演さんで呼んでやってるって感じですかね。

―――メンバーには、俳優だけじゃなくて、演出助手や制作、音楽はもちろん、技術っていう部署の米田君だったり漫画家っていう部署の進野さんだったりもいると思うんですけど、それぞれのメンバーに入団してもらう時はどういう理由で選んだんですか。

山崎彬:劇団っていうのは言ってしまえば半永久的に自分の作品に関わる人たちだと僕は思っています。なので、その人が自分の作る演劇にずっといることがイメージできるかは、とても大事にしてるかもしれない。あんまり演劇の基礎が有る無いとかでは選んではないです。例えば佐藤かりんは、実際俳優経験が全然なくて舞台美術志望で入ったけど面白そうだからってことで役者やることになったり。なので、集まってくれた人たちでやれる新しい事っていうのを探してます。悪い芝居に入らなかったら、やってなかったことは毎回捧げたいと思ってます。結果的にどんな人たちが集まっても、きっと自分の作品とか自分の演劇人生に何かしら影響を与えてくれる人が集まってると信じてたりします。演出助手の藤嶋恵は今や当たり前に横にいる感じだし、太郎君の音楽がないとどうしたらいいんだろって思うし、入ってくれたことによって必要な人になる感覚ですね。縁です、縁。


―――さてそんな個性豊かなメンバーと今回二本立ての新作をするということなんですけれども、二本立てにしたきっかけというのはなんですか。

山崎彬:ひとつは、僕らが最近の東京公演のホームとして使わせてもらっている東京芸術劇場シアターウエストが二週間借りられたっていうのと、悪い芝居が15周年ってのもあって、何かでかい公演をやりたいなって思ったんです。一本の新作長編でもよかったんですけど、どうせ長い期間やれるなら新作長編二本立てで、二週間を盛り上げようって。悪い芝居は毎回毎回作風が違うとよく言われるんですが、これは僕のせいで、一回やったことをすぐ飽きちゃって、前作の反動で違うことやっちゃう。笑いが多めで短いシーンがサクサクかわってゆくポップなお芝居と、ナイフで心をえぐるみたいな人間模様を描く会話劇風の作品をだいたい交互でやってきているので、一回の公演で二本立てで同時に見せれば僕らの面白さとか魅力というか、悪い芝居を知ってもらえるかなと思ってます。

―――実際、二本書いて作ってみてどうでしたか?また、縛りとして決めたことなどありますか?

山崎彬:大変だけど今のところ楽しいです。本番が始まったらどうなってるかわかんないですけど(笑) 。 あらかじめ自分で決めた縛りは、まず16人いる出演者をAには出てBには出ないって二本立てではなく、両方の作品に出すってことくらいですかね。なんか片方にしか出ないのってつまんないなって思って。作品ももちろん、役者さんの色んな顔を見せたいんですよね。

―――実際今稽古中だと思うんですけど執筆の時にはどんな苦労などがありましたか。

山崎彬:今まで一本で書いてた時もそうなんですけど、一個の脚本のことだけ考えて書くよりも、他に同時進行で動いてるプロジェクトがあった方が書けるたりするんですよね。いい意味の息抜きになるっていうか。なので苦労っていうよりはむしろ、好きにしていい悪い芝居の脚本を同時に二本かけるっていうのは、物理的に時間はかかったけど、案外良い影響がありましたね。

―――具体的にはどんな風に書き進めて行きましたか。

山崎彬:まず同時に書いていこうと思ったんです。
1シーン書いたら、次はもう一本の1シーンを書くみたいな。だけど、あんまり進まなかったんです。なので途中で一本だけ、まずは『野性の恋』だけを考えようって時間を作りました。で、そうするといい感じで飽きてくるんですね。で、飽きたら『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』を書いて、また飽きたら『野性の恋』を書く感じで、並行して書いてゆきました。最後の方は、どっちも同時に書きたいみたいな欲求になってきて、まぁ実際同時には書けないので、片方を書きながらもう片方の次のシーンを考えたりとか、片方でこういうことやったから、もう片方はそこから遠いことやろうとかって。それがどんどんいい感じに混ざって、最初は二本とも完全に別々な話にしようと思ったんですけど、色々な繋がりとかが出てきて自分でも面白かったですね。

―――え!? どんな話にしようとか考えずに書いてるということですか。

山崎彬:はい。僕は作品を書く時に、こんなことを伝えたいとか、今回こんなイメージにしたいなっていうものを初めに決めるんです。『野性の恋』だったら変態なラブストーリーにしたい、『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』だったらもうハチャメチャな作品にしたいっていうのを初めに決めて。次に役と役名を考えてそれぞれの相関図を考えて、そこからいざ書き始めるまでウダウダ頭の中で考えて、書き出したら即興的に一気に書いていく。なので絶対に、一本だけを書いていたらこういう話にはならなかったですね。それは最高な発見でした。お互いを書いていたから影響しあってこういう物語になったなって。この先もずっと二本立てにしようかなってくらい。ほんと観てもらったらわかる。どっちも完全な新作長編本公演として耐えうる以上の作品です。ほんまにこれ、二本同時に書いたのかって思うと思いますよ。

―――苦労したことなんかはなかったですか?

苦労したのは16人出すということくらい。今までだと、それぞれの見せ場を多少なりとも作りたいと思って書くんですけど、途中ぐらいから、普段はあんまりできないような、前半に出たらもう後半出てこないとかそういう作品でもいいかなって、最終的にはどこか開き直っていて書きました。片方であまり出番がなくてももう片方であるしいいよねって。それも結果的には今にはない手触りの作品にしてくれた。これも驚きました。

―――稽古はどのように進めていったんですか。

山崎彬:初め稽古のスケジュールを立てた時は、1日を半分に区切ってやる予定でした。ただ、こんだけ作風が違うと、両方稽古したら頭がぐちゃぐちゃになっちゃって(笑)。真ん中の休憩はやたら長くとることにしました。『野性の恋』をやって『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』をやるときは、溜まったストレスを発散するみたいな感じでよかったんですけど、その逆は難しかったです。もちろん稽古も二倍ですから不安もあったんですけど、このインタビューの時点でもう両方通し稽古ができてるんで、あと2週間ほどある中でここからよくしていけるなって今は思っています。

―――今回、悪い芝居メンバー以外の出演者はどういう意図でキャスティングされましたか。

山崎彬:まずメンバーにいないタイプの人を呼ぼうっていうことから始まって呼んでいます。今回は二本あるんで、そういうことも含めて楽しんでくれる人たちとやりたいってのはあって、出てくれた客演さん達も実際楽しんでやってくれてるんで、この公演をやったことで客演さんだけど悪い芝居メンバーと言うか、この公演に立ち向かった同志である勇者たちとして今は思ってます(笑)。みんなとても作品に貢献してくれててありがたいです。異なる現場を同じメンバーで同時にやってるって感覚もあって面白いです。飽きが来ないっていうか。

―――お客様からするとどっちの作品を見たらいいんだろうとかっていう思いがあると思うんですけど。

山崎彬:まず最初に声を強くして言いたのは、今回に限っては二本とも観てくださいって思いがとても強いです。物語もちょっと繋がってる部分もあるけど、そこは一本でも楽しめるようになってるんで心配いらないのだけど、やっぱり同じ役者の全然違う顔を同時に見てもらう機会ってのはないので、役者を観てほしいんです。スタッフワークもしかり。短編のオムニバス演劇ではなくて、長尺の新作本公演としても耐えられるだけの作品を二本作ったんです。もし、素舞台で2つの少作品をやるんだって印象を持たれていたら、そうじゃなくてガッツリセット建てて本公演を二本やってるってことを味わってもらいたい。バンドで言ったらコンセプトの異なるフルアルバムが二枚同時でリリースされるみたいな。で、どっちを聴いたらいいですかって問われても、どっちも聴いてくれよってなるのと一緒なんです。ただ、みなさん予定や何やらもあると思うので、強いて言うなら、『野性の恋』はどっちかって言うと会話劇を主体にしたような演劇になってます。どちらかというと、軽やかに展開しますが、いい意味のズッシリ感はあります。『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』はエンターテインメントで、ずっとバカバカしいギャグみたいなシーンもあるけど、最後爽やかみたいな演劇。それぞれに悪い芝居の特徴が盛り込まれているので、どちらか一本なら、こんな感覚でどちらを観るか選んでもらえたらいいかなと思います。まぁ、タイトルから自分はこっちが好きかなって思った方を観に来れば、だいたい間違ってないとは思います。どちらかで迷ったらタイトルが好きな方を観に来てくださいっ!出演者は同じなので。

―――今回二本立てということで、いつもと違うことをやったわけですが、今後悪い芝居はどういう風になっていくと思いますか?

山崎彬:そういう風に聞かれるとずっと違うことをやらなきゃいけない感じになるんですけど、今回二本立てって言って特別な公演に感じるかもですが、案外いつも通りで作ってますし、言ってしまえばいつも2時間半とか2時間40分の二幕物とかを作っているので、それが二本分で三時間ちょっとなわけだから、これまでと変わんないんですよね。やってることは初めてだけど、ゆうても一昨年の夏は五作品の中編の同時上演もやりましたしね。この先も自分たちなりのマイペースで作ってくんじゃないかなと思います。ただ、新作の本公演を二本立てでやる公演は今回が初めてなわけなので、劇団としての初めての瞬間に立ち会ってもらえたら嬉しいです。スタッフワークも同じスタッフが全く毛色の違う世界観をつくってくれて、全然雰囲気も違うので、演劇を観るのが好きな人や演劇をやってる人も二本とも観てもらうことで、こんなに演劇の幅があるんだっていうのを感じてもらえるかな。同じセットって言ってるんですけど、それはまぁね、何かしら仕掛けはあるんでそこは楽しみにしてて下さい。是非一本まず観て、ここで別の作品もやってることが気になったらもう一本を観て欲しいなと思います。次の本公演まで待たずとも別の作品が見れるのも今回の二本立て公演の魅力なんで。
(後編へ続く 5月20日公開予定)