―――後編ではそれぞれの作品について細かく聞いて行きたいと思います。

山崎彬:作品内容にも積極的に触れていきたいと思ってますんで、観たあとに知りたい人はそうしてくださいっ。

―――それではさっそく『野性の恋』について聞かせてください。こちらはどんな物語になっていますか?

山崎彬:まずラブストーリーにしたいと思ってつくりました。ちゃんとラブストーリーになってるかは観てもらって判断してもらうしかないですけど(笑)、一応僕なりのラブストーリーです。物語の重要なピースのひとつにノストラダムスの大予言があります。これは僕がちょうど高校生の頃に再ブームになった、1999年の7月に人類が滅亡するという予言です。そのノストラダムスの大予言でなんとなく世間がざわついてる1999年と、それから20年後の2019年現在の二つの時間軸の物語になっています。松本亮くん演じる昼間太陽という役が、一人の女性をずっと想い続けてる役で、悪い芝居メンバーの潮みかが演じる六嶋こころという29歳の生物教師の役にもずっと好きな人がいて、その二人が偶然出会ってそれぞれがそれぞれの好きな人のことを想い続けていく中で起こるラブストーリーです。キャッチコピーにパンチドランクラブストーリーって書いてるんですけど、パンチドランクラブってのは強烈な一目惚れっていう意味です。一目惚れっていう、人を好きになる上で言葉では説明できない、理由のある好きじゃなくて、好きだから好きっていう想いをずっと持っている男女の話です。

―――『野性の恋』っていうタイトルはどういう意図でつけたんですか?

山崎彬:人間自体がそもそも動物であるわけで、秩序を守るために付き合ったり結婚だったりといった恋愛のルールを決めたと思うんですけど、そういうものがとっぱらわれた恋、言葉やルールじゃどうしようもない野性の恋、そんな想いをタイトルに込めました。

―――何故今恋愛ものを書こうと思ったんですか?

山崎彬:なんとなく、としか言えないんですよね。人生は一度きりで、その中で誰かを想う限られた時間をテーマに書こうと思って、やり直したいことだとか、未来はわからないことだとかを、ちょうど考えてたので、それを元にしたラブストーリーにしようと思って書きました。メンバーの東君に「ラブストーリーにしようと思って書いてなくてもいつもラブストーリーじゃないか。だから適当に書いてもどうせラブストーリーになるでしょ」みたいなことを言われたんですけど、まぁ思い返せばそうだった。僕の作品って全部ラブストーリーだった。だけど今回みたいな、縛りとしてラブストーリーを書くって決めて書いたのは初めてだったので、とても面白かったです。

―――『野性の恋』はこれまでの山崎さんの作風にはなかったものに感じる部分があるんですけれども、山崎さん自体は意識されましたか?

山崎彬:特には意識していないです。新しいものを作ろうと思ったりとか、自分が書いていないものを書いてみたいと思ったりも少しはしますけど、強く意識したつもりはないです。ただ、どんな風な展開になっていくんだろうって物語を書きたくても、昔はもっと行き当たりばったりで書いてたかもしれない。だけど最近は、自分が何かを見たり体験してワクワクするときの記憶を大切に覚えておくようにしていて、書くときに鮮明に思い出すようにしてます。書いてる自分も、先の展開にワクワクしないと積極的にボツにしました。極端な話、理屈が通ってなかろうが内容が無かろうが、ずっとワクワクドキドキさせる展開があるものは強いと思っています。予定調和が一番の敵です。オチの素敵さよりも、ずっと続いてゆくように幕を閉じる、観た人が先を想像するようなストーリーが好きです。

―――『野性の恋』では、清水みさとさんが弾き語りをしますね。

山崎彬:Twitterでギターを持っていると書いていたので「弾けるんですか?」って聞いたら「弾けます!」って言うから弾き語りのあるシーンを入れたら、実はあんまり弾けなかったということが後で判明したので、猛特訓してもらいました(笑)。できなくても「できる」って言うの、すごくないですか。それも含めて清水みさとという役者だし、みさとちゃんがギター持って座ってるだけでそこに物語があると思ったから、弾き語りのシーンはカットせず猛練習してもらってやってもらいました。みさとちゃんの歌、めっちゃいいですよ。必聴です。

―――『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』はどのような作品になってるんですか。

山崎彬:『野性の恋』が笑える部分もあるけど、どちらかというと物語を見せることに重点を置いたので、こっちはとにかく笑えるくだらないものにしたいなと思いました。やっぱり二本立てをするからにはそれぞれの方向性を決めようと思って書いたので、そういう意味でも新作二本立ての影響がモロに出てると思います。笑えるといっても悪い芝居の笑いってちょっと特殊だと思っていて、誤解を恐れず言えば、僕は最高の笑いって最大の内輪ウケだと思ってるんですね。極端に言えば、すべての笑いは内輪ウケで、その内輪にどうやって巻き込むかを特に考えてます。『野性の恋』に出てくるみさとちゃん演じるミュージシャンの夏木煙子の朝ドラと言いますか、その生涯を書こうとはじめに決めて、そこから即興的に彼女の人生を書いてゆきました。それともうひとつ決めたルールは、悪い芝居過去作へのセルフオマージュというか、今までやった作品で面白かったシーンをよりブラッシュアップして入れてみるとか、同じキャラクターが出てくるとか、悪い芝居作品のパッチワークみたいに書きました。劇中歌も、過去に歌ったような歌にも聞こえるし、無駄に効果音が入るとか無駄に賑やかだとか、登場人物がみんなで演じる場を作っていくだとか、そういう悪い芝居をふんだんに混ぜてます。新しいものというよりは、今までの技術と経験を様式美のように使って、大いなるひらめきをどんどん入れてくみたいな感じで書いて、これ永遠に書き続けられるな、一生書き終わらへんなと思ったんで無理矢理終わらせましたけど(笑)。無理やり終わらすのも悪い芝居の作風なので、あの終わり方で良かったかなと思ってます。

―――過去作のキャラクターといえば、『アイスとけるとヤバイ』の錦鯉眠子、八野純白ですとか、『スーパーふぃクション』の冠虚や肌家実などが登場しますが、キャラクターを選ぶ理由は何かありましたか?

山崎彬:特にないですけど、『アイスとけるとヤバイ』の2人はやってたとき楽しそうだったのと、今回大塚君が出てくれるっていうので冠虚は絶対出そうと思いました。そういう過去のキャラクターを出すのって、僕は好きなのでよくやります。もちろん見たことない人でも面白いようにつくってますけど、知ってる人はまた違う面白みがあると思います。それから今回は近藤夢は出ません。6年ぶりです。

―――出身地の奈良も出てきますね。

山崎彬:今回がっつり奈良、っていうか奈良公園・大仏・鹿が出てくるので奈良のお客さんは楽しみにしててください。いるのかな(笑)。


―――それぞれの作風の違いだけでなく、例えばセリフ一つ一つとかでも、何か自分の中で書き分けたんですか?

山崎彬:どうだろう。『野性の恋』は会話劇にしたかったので、生理的な、例えばちょっと言い淀むとか、何か考えながら言うとかみたいな台詞回しは意識して書いたかもです。『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』は、短いシーンがドンドンドンってテンポよく進むので、テンポのよい聞き心地のいい言い回しとかは意識したかもしれません。とは言え会話劇でもテンポのいいセリフまわしでも、どちらも言葉はとても大事に書いていて、それぞれが自分の思いを表す言葉を獲得して喋ってくみたいなことを意識してるので、書き分けるって意識を強く持ったわけではないですね。僕は、一人の作家はずっと同じことしか言えないって思っていて、過去作も今回の二本も、あんまり言ってることは変わんないなー、とは書き終えた時に自分では思いました。

―――悪い芝居の作品には歌がよく出てきますけど、歌詞を書く時と台詞を書く時は、何か違う感覚で書かれてるんですか?

山崎彬:台詞は多くを語らなくても、人がいて、物語っていうのがあるので伝わるなと思ってるんです。僕も観劇するとき、全部を本気で聞いてないですし。あえて説明的にするシーンもありますけど、基本的には「何を書くか」じゃなくて「何を書かないか」が大事かなあと思ってます。実際書くにあたってはそういうことさえも意識せずに、その場にいる役に話させてるっていう感覚ですね。歌詞を書く時は、音のリズムにはめるとか、メロディにはめるだとか、メロディが聞こえてくるような言い回しだったりだとかを書くようにとかはありますけど、一番大切にしているのは、その言葉でどんな情景を浮かんでこさせたいかってことです。多分演劇の歌詞だからっていうのもあると思うんですけど、目の前で歌ってる、で、その歌も上手い、メロディもいい、でも演劇の中に組み込まれた時に「なんで歌うんだろう」って思う瞬間が嫌なんですよね。直接的に物語を進めるような歌詞を書かないようにはしているんですけど、その歌詞世界だけでも情景が浮かんでくるみたいなことはとても意識して書き始めます。で、まず情景が浮かんでくるかを大事に最後まで書いたら、次は逆にその情景を浮かばすためだけに書かれた言葉を削いでいって、情景からめちゃくちゃ遠い言葉だけど情景が浮かぶような言葉を優先的に残したり、そのときにまた新たに浮かんだ言葉を足したりします。動画なのか写真なのかわかんないけど自分の中で浮かんでいる情景を先に浮かべて、それを歌詞に変換させる感じですね。僕は曲は作れないんですけど、メロディみたいなのは誰にも聞かせないけど自分なりに浮かべてますね。今回の曲は、作曲の太郎君と長くやってるからかもしれないけど、実際僕が思ってたメロディーと全く一緒の部分がたくさんあったんですよ。やっぱり言葉に音楽は乗ってて、太郎君も汲み取ってメロディを作ってくれたんじゃないかなって思ってます。

―――二本の作品を演出する上で気を付けたことはありますか?

山崎彬:そこに関しては同じ脳みそで演出した気はしますね。登場人物の目線をどこに向けるかとかは作風の違いの影響はあるかもしれませんけど、どっちの作品でも大切にしたのは、本に出てくる場面は登場人物の人生の中でも強烈に思いが残ってるシーンだと思うので、そこは会話劇だろうと、エンターテインメントだろうと変わんないから、徹底的にみんなで掘り下げました。最終的にお客さんに見て欲しい景色は明らかに違うので、それぞれの景色に向かうようには導いていくような演出はした気がします。

―――二本観たあと、劇場を出た帰り道で見る景色がどういう風に変わるみたいなことはありますか?

山崎彬:脚本のことで言うと、同じ登場人物が何人か出てきます。それぞれの役は、時系列は繋がっていないんですけど、パラレルワールド的に価値観は同じものを持ってると思って登場させています。両方見ることで、もう一個の作品の見方が多少変わったりみたいなことはあるんじゃないかなと思ってます。演劇を見てる時に、例えばラブストーリーなら自分の好きな人のことを思ったりだとか、家族のシーンなら自分の家族を思ったりだとか、劇場の外のことを考える瞬間が、僕は物語が持ってる一番の魅力だと思っています。二本観ると何が面白いかって、仮に劇場の外を思い浮かべさせられたとしたら、同時に、あ、あっちの作品でのあいつはどうしてんのかなっていうのを、同じセットだからってのもあって、ちょっと思い浮ぶんじゃないかなと思ってて、それは面白いんなと思います。現実以外にもうひとつできた世界があるみたいな。

―――観る順番はどっちからがいいとかはありますか?

どっちから見て欲しいかって聞かれると、一応悪い芝居の本公演には通しナンバーがついていて、vol.22が『野性の恋』、vol.23が『暴動のあと、さみしいポップニューワールド』なので、一応順番通り見てもらうほうが面白いつもりでは書いています。まぁでも、逆は逆で、僕らの本当のかっこよさが知れるみたいな良さもあると思うかなあ。なのでどっちから見てもそれぞれ楽しみはありますが、人生は一度切りなので、どっちかから観るっていう経験しかできないので、そこは観る人のセンスによるから、それはもうご自由にどうぞって感じです。前編のインタビューでも答えましたけど、とにかく同じセットと言えどちょっとした仕掛けはあって、本当に違う世界に見えると思います。今日やってた芝居は明日やってなくて、もうひとつがやられてるんだなーって思うことも含めて楽しめるんじゃないかなと。なかなか二本同時にやる機会っていうのは僕らもこの先今のところ決まっている予定では無いですし、お客さんとしても観てもらえることはないと思います。なので今回の機会を逃さずに、ちょっと悪い芝居から離れてる人とか、悪い芝居観たことないけどどんなんなんだろうと思ってる人とかにはうってつけの公演になっています。チケット代的にも二本見た方がお得ですし、だったら二本とも観るっきゃないってことで、僕らも頑張るんでよろしくお願いします。

―――嫌な言い方かもしれませんがあえて言いますと、二本立てだとかける時間や労力が分散されてどっちも共倒れってこともあるんじゃないですか?

山崎彬:そうなるんだったらそもそもやらないですね。できることしか神様は試練を与えないですから。逆に二本やるって事は僕ら二本やれる力がある劇団になったということで、それはもう劇場で確かめに来てほしいです。分散するってことは絶対ないとですし、僕らは昔から過剰な劇団なので実際今は、小道具の量が多いなとか、打ち合わせ2回やらなあかんなとか、もうみんな笑いながらしんどって言ってるんで、そこも含めても、ようやったって面白みもあるんじゃないですかね。本もちゃんと書けてますし、二本ともに全員が出演するっていう機会もないですしぜひぜひ来てください。でもみなさん的にも、時間を二倍いただくことになりますからね、別の芝居を二本見るような感じで通いつめてもらえたらなと思いますので、何としても生きて劇場で会いましょう。僕らも生きます!

―――ありがとうございました。

山崎彬:ありがとうございました!!!