9月、浅草九劇にて行われる悪い芝居の演劇フェス『悪いけど芝居させてくだ祭』。
稽古真っ只中の酷暑の夜、3人の演出家による特別鼎談が都内某所にて決行された。
6日間5作品を一挙上演するこの無謀な企画にて、新作1本と旧作二人芝居2本の計3作品を発表する山崎彬、そして今回悪い芝居として演出家デビューする看板俳優・渡邊りょうと新人・東直輝。
全3回にわたる特別鼎談パート2では、山崎が作・演出し渡邊、東それぞれも出演する2本の再演二人芝居『マボロシ兄妹』『神様それではひどいなり』に迫る!!(進行:植田順平)

2本の再演二人芝居
植田:再演の2作品について伺っていきたいんですが、『マボロシ兄妹』と『神様それではひどいなり』の2本選んだ理由って何ですか?

山崎:まずショーケース形式の公演をやろうってなって、シンプルな舞台美術の中で入れ替え易いような作品をやるって縛りが最初にあって、それに適した中編って何だろうなって考えて。どうせやるんだったら本公演に匹敵するような見ごたえのあるもので、それでいて自分の過去作で今挑戦すべきなのは何だろなと選んでったら、自然にこの2本が勝ち残った感じですかね。この二人芝居って両方とも外部に書き下ろしてるから、悪い芝居メンバーではやってないんすよ。

植田:あ、確かに。

山崎:だったらメンバーでやることに意味もあるし、俳優としても二人芝居ってのは真価が問われるから良いチャレンジになるし、いろんなポジティブな要素が重なって。

植田:なるほど。

山崎:僕自身も作品としても2本ともめっちゃ好きだし。これはもうやろうと。必然的に決まってった感じですね。

植田:まさに打ってつけな2本。

山崎:そうですね。
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渡邊りょう 中西柚貴出演『マボロシ兄妹』
植田:『マボロシ兄妹』は、初演が2012年「俺とあがさと彬と酒と」という公演で、谷賢一さんと岡田あがささんの二人に書き下ろされて、そのあと2014年に青山円形劇場で悪い芝居プロデュース公演アンダーヘアとして上演されて。

山崎:出演者って10人くらいだっけ?

植田:15人ちゃいますかね。

渡邊:そんないたんだ。

植田:そんな感じで過去に2回上演されていて3回目になるわけですけど。

渡邊:ある種の山崎彬の代表作の1つではあるんじゃないのかなって勝手に思ってます。

山崎:僕の作る演劇って、バンドとかを使ったような音楽劇と、客席も使うようなメタ演劇、そしてとにかくお客さんの想像力をふんだんにお借りする演劇っていう、大雑把に分けたら3つの方向性のものを作ってきたと思っていて。

植田:はい。

山崎:『マボロシ兄妹』はその3つ目、お客さんの想像力をふんだんにお借りする作品で、その中でも物語的にも演出的にもうまくハマったって思い出はあります。

植田:そうですね。

山崎:で今回、二人芝居版を再演するにあたって、青山円形版で主演をやってたりょうくんには出てもらいたいなって思って。

渡邊:はい。

山崎:そんで、もう一人は、今悪い芝居を代表する女優である、

植田:ゲホ!!(本当にむせる)

山崎:中西柚貴さんしかいない! そう思ってこの二人に決めました。(笑)。

渡邊:僕は青山円形の時に1回闘ってますけど、二人芝居版の稽古をやってみて、『マボロシ兄妹』の本質ってこっちなんだなと思いました。演劇的にもそうだし、普通の人には書けない本じゃないですか、どう考えても。だから、それを体現することもですけど、ほんとに二人芝居のために書かれた本だから、面白いなと思ってやってます。大変ですけど。

山崎:二人芝居って、当たり前やけど2人しかいないからね。(笑)。

渡邊:体力がやっぱり必要ですね。どこでサボるかってことしか考えてない。(笑)。

山崎:ほんとそれ大事だよね。(笑)。

渡邊:逆にそれがないと、一辺倒になっちゃったりしますからね。

山崎:稽古でも、このシーン終わった、よし、じゃ次行きますかってなったら、次もまた同じ人が出てるから。(笑)。

渡邊:(笑)。

植田:でも『マボロシ兄妹』って休むとこなくないですか?(笑)。

渡邊:全然ない。自分たちでもどこにいるか分かんなくなるんですよ、この作品。

植田:今は誰なのかも分からん感じやもんね。

山崎:台本に書いてますから。まえがきで。

植田:そうやった。

山崎:「この本に憑かれすぎると、君は発狂する」って。

渡邊:この作品は、どこへでも行けちゃうからなあ。

山崎:今、この役をやってますみたいな、今回りょうくんは何役とかが無いもんね。でも、物語は進む。

渡邊:何て言えばいいんだろう。めっちゃ面白いです。やりがいしかない。

植田:やりがいだけがある(笑)。

渡邊:やりがいで殺されそう(笑)。

植田:柚貴ちゃんはどう?

渡邊:僕は青山円形版に出てるので、スタートとしてはすごいやりすくて。景色も見えるし、それに対する準備がある程度は分かるからいいんですけど。柚貴ちゃんは初めてなので、僕の目の前で柚貴ちゃんがどんどん死んで行くのがわかります(笑)。

一同:(笑)。

渡邊:あ、今脳みそが爆発した、みたいな。そのうち鼻水に混ざって脳ミソ垂らしそうです。

山崎:『純白』も主演だし『夢を見た後見てる夢』も四人芝居やもんね。中西柚貴はこの企画で、化けるか演劇を辞めるかですね。

一同:(笑)。

山崎:今回やりきったらあの人、すごいことになると思うよ。

渡邊:3本とも全然質が違いますもんね。

山崎:だから頑張って欲しいっすね。
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東直輝 野村麻衣出演『神様それではひどいなり』
植田:『マボロシ兄妹』がお客さんの想像力をいっぱい使うってものであったのに対して、『神様それではひどいなり』は、どういう作品だという認識ですか?

山崎:元々この作品は、おじさんの悲哀を書こうと思って書いたもので。

東 :へー。

山崎:関西小劇場の大先輩である石原正一さんが二人芝居を毎月やる企画が昔あって、その時に書いたもので。相手役はサリngROCKさんという劇作家でもある女優さんで。サリngさんってめっちゃ綺麗な女性なので、おじさんと美人をあてがわれた時に、これはおじさんの悲喜こもごもを書くべきだなと思って。

東 :そうなんだ。

山崎:終始笑っては観てられるけど、最後の方ゾッとして、ちょぴり切ないみたいな本を書きたくて。演出は石原さんご自身だったんだけど、とても面白かった。それをやりたいなと思って。で、おじさんって考えたら植田くんとかも候補やったんですけど、『マボロシ兄妹』は悪い芝居の二枚看板が出るなら、こっちは新メンバーから選ぼうと。それで、おじさんっていう設定をもうちょっと幅広くして、東くんと野村さんにお願いしました。

植田:そうだったんですね。

山崎:頭カチカチにならずに自由自在な状態でいることが求められる作品だから、そこを今、稽古してますね。

東 :僕は今回の企画(悪いけど芝居させてくだ祭)で、自分の本もやるって決まった当初、「何にも出ないです。無理です」って山崎さんに言ってたんですけど、いろいろ言いくるめられて。

渡邊:ははは。(笑)。

東 :じゃあ1本は出ますって言って決まったのがこれで。結果的にりょうさんの『それはそれとした』も出ることになりましたけど。で、決まってすぐ『神様~』の台本もらって読んだら、「そんな苦労かけないから」みたいなこと言ってたのに、めっちゃ大変じゃんって。

渡邊:大変だよね。

東 :やっぱこの人、大変な時にこそ試練を与えてくるタイプだなと思いました。

山崎:でも面白いって言ってくれたよね?

東 :いや本は面白いですけど、面白いのと自分ができるのは違うじゃないですか。

山崎:読んで面白いなら、半分出来たようなもんじゃない?(笑)。

東 :今回じゃなくていいのにって思いました。

植田:読んだ感想をもうちょっと具体的に聞いてもいい?

東 :面白いなと思ったんですけど、ストーリーは、僕がバカなのか5回くらい読むまで理解できなくて。だから、よく分かんないまま煙に巻いたまま終わるみたいな本だと思って稽古に臨んだら、「男と女が出てきて恋に落ちるだけの、ごくごく普通の単純な物語のつもりだよ」って山崎さんに言われて。

植田:まあ、確かに複雑な話だけど、大まかにはそれですもんね。

東 :自分の持ってきたものが全然違ったから「あーダメだ」ってなって。「自分の本書いてたんで」っていう言い訳もして。でも、山崎さんも無駄な苦労をかけてくる人じゃないから、この作品を平気で越えられるようになったら、役者として成長って言ったら安易ですけど、自分の幅広げられる作品になるなと思ってます。

渡邊:野村さんとはどうなの? 俺、まだ稽古は見てはないから聞きたい。

東 :野村さんと僕は、まだ全然息合ってない感じです。

渡邊:(笑)。

東 :僕はめっちゃ野村さんに興味持ってるんですけど、野村さんはまだ心を開いてくれてない感じです(笑)。

渡邊:へー(笑)。

東 :初稽古の時、トトロの靴下を履いてて。で、何日が空いた二回目の稽古の時も同じ靴下だったんで、「前もトトロ履いてましたね」って言ったら、「えーキモー」ってのが第一声で。言われた後、せめて言うなら「すごーい」とかでしょって思って悲しくなりました。

渡邊:「すごーい」もおかしいだろ。(笑)。

山崎:役づくりなんじゃない?(笑)。 役も野村さんも、簡単にこっちを喜ばしてはくれない人だもんね。

東 :「勝手に喜べば?」みたいな。

山崎:しかも駆け引き的にやってるわけじゃ無いもんね。照れ隠しなのか、悪意なく素で言わはるもんね。

東 :あとは僕、口が悪いんで嫌われないようにしなきゃな、と思ってます。

一同:(笑)。
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演出すること、されること
植田:今回、自分の作品を演出しつつ、いつも通り山崎作品に出演もしてるわけで。

渡邊:ええ。

東 :はい。

植田:その上で、演出をする側の今企画だからこそ、演出をされる側として思うことってあります?

東 :いやもう、めっちゃイライラするんですよ、なんか。

植田:何に? 自分に?

東 :自分にイライラします。自分が演出するときは、観てて違和感があるのは分かるけど、それをすぐに言葉にもできない。できてもめっちゃ時間がかかる。それなのに山崎さんは、1を見て100を語るみたいな感じで無限に喋り始めるから「何でこの人こんなに言葉が出てくんのかな」とか思って。ダメ出し聞いてなきゃいけないんですけど。

植田:(笑)。

東 :この人意味分かんないとか思って。

植田:同時にやってるからこそ、より思うわけか。

東 :『罠々』のときは気づかなかったです。だから、なんとかコイツを黙らせられないかと思いつつ。

山崎:良い芝居してくれたら黙るよ。

東 :それは分かってます。でも全然黙ってくれないから「あー全然ダメだ」ってなっちゃって(笑)。

一同:(笑)。

山崎:まあ、不甲斐ないと思ってるだろうけど、今回はね、自分の作品もあるから、セリフ覚えるのも大変だろうし。

東 :でもりょうさんは…。

山崎:りょうくんはセリフ覚えてるよ。

一同:(笑)。

東 :それも知ってるから、なおさら(笑)。

山崎:まあ今、ちょっと話ずれるかもだけど、僕も含めて二人も、二人だけじゃないか、全員がこの稽古の進め方の中で、どうやるんが1番良いのかみたいなのを、それぞれが探ってる時期でもあるよね(笑)。

東 :全然見つかってないです。

山崎:マジで? 俺ちょっとずつチューニングが合ってきたけど。

東 :そうですか。僕はまだ全然。

山崎:分けた方がいい。もうそれぞれ別現場と思った方がいいよ。

渡邊:俺は逆に『マボロシ兄妹』の稽古してるときの方が、すごい楽ですね。役者としての脳みそで、『マボロシ兄妹』と向き合う時間は、もう怖さしかないから、それがシンプルで楽。目の前で、アップアップしてる子もいるから(笑)。

植田:柚貴ちゃんね。

渡邊:だから、こっちは心にゆとりが持てて(笑)。柚貴ちゃんのお陰で僕は伸び伸びできてます。

東 :いいなー。

渡邊:まあ俺は東よりも山崎さんに演出されてきた時間が長いから、演出されることに安心感がありますね。役者としてサボれる部分があるのかも。なんというか、ほんと委ねてる。今はただただ信じて体現するってことをやってる感じ。

植田:ほう。

渡邊:自分が演出する方は、初めてだし自分が知らないことも多いから、ある種、聞きたいことは聞いてる。「稽古のペースとかどうですかね」とかも含めてアドバイス貰ったり。

植田:そういう感じやね。

渡邊:ほんとに周りのメンバーも含めて、いろいろ聞きながらやってるかな。もしかしたら演出もして別作品で役をやることで、どっちも呼吸しやすくなってるかもしれない。俺ね、ひとつのことにガッてなると周りが見えなくなるタイプだから、このぐらいの方がいいのかもしれない。

山崎:確かに、いつもより顔が健康かも。

渡邊:そうかも。

山崎:『マボロシ兄妹』と『それはそれとした』で演出家のとき、違う顔してるもんね。『純白』はまだ稽古を現段階では1回しかやってないからわかんないけど、なんか今回、穏やかな顔してる。『罠々』の時は、もうちょっと逆立ってた感じ。

渡邊:現場ごとで責任も委ねてるから。だから大変だけど、色々やれて逆に俺は楽かな。伸び伸びやってる。

東 :いやもう、さすが先輩って感じ。

渡邊:もう諦めた、いろいろ(笑)。

山崎:諦めた方がいい(笑)。

植田:委ねればいい(笑)。

東 :それができないんですよね。『罠々』のときも、自分でなんとかしなきゃって思って、先輩めっちゃいるのに全然聞くってことをしなくて。

山崎:言ってたもんね。聞けば良かったって。

東 :もっとコミュニケーション取らなきゃって思ったのに。りょうさんが彬さんにアドバイスもらってんの見てんのに。ただ、僕の作品の1回目の稽古が大失敗だったんで、出演者の4人には、結構心は委ねられるようにはなりました。

植田:失敗やったん?

東 :いや僕的には。

植田:俺あれすごい良かったけどな。

東 :そうですか?

山崎:植田くんは、希望の国の人だから(笑)。

植田:結構なんでも良しとできる(笑)。

山崎:役者は演出家が言うことは何でもヒントにするから、東くんの好きにすればいいと思うけどなあ。

渡邊:俺の現場はどうですか? 植田さん。

一同:(笑)。

植田:俺? 俺が喋んの? 三人の話を引き出す側やのに。

渡邊:つまんなかったらカットするんで(笑)。

植田:りょうくんに不安を感じるとかは無いかなあ。自分が求められてることに対しては、いっぱい梯子登らないとたどり着けへんぞとは思ってるから、自分に対する不安はあるけど。

渡邊:稽古の進め方とかは? どう?

植田:ちゃんとしてるよ。

渡邊:よかった。何も考えてなかったんだけど。

植田:そんなことなくない?

渡邊:山崎さんの演出を見てて、自分のイメージを全部出し切ったあとから役者と一緒に考えられるんだなって思って。

植田:ほお。

渡邊:当初は、みんなと一緒に考えて「どう思う?」「これってこういうことなんじゃないか?」みたいなスタンスで進められたらいいなと思ってたんだけど、結局、僕の好きな色んな演出家を思い返すと、それだけじゃダメだなというか。

植田:うんうん。

渡邊:演出家として、まず自分をどれだけ晒け出すかが勝負だなって。一方的に晒け出すのは違うなとは思うけど、演出家が晒け出してくれるから役者としても晒け出せるんだなって。だから、みんなで話して良くしてくために、自分を早い段階から晒そうと思った。

東 :僕も「どうなるか分かんないですけど」って単語が稽古場で1番出てるかも。

山崎:悪い芝居のみんなは良くも悪くも真面目だと思うんです。もちろん不真面目より真面目な方が大きな武器を振りかざせる力は持てると思うんですけど、ホントの真面目って必死にやるだけじゃないと思うんです。ドラクエでも全部の敵と闘ってたらボス戦の前に死んじゃうわけで。だから逃げるコマンドも駆使するわけで。

植田:うんうん。

山崎:真面目にやるってのは、下手したら、遊び心を持つことや自由にいることを忘れてしまう可能性もあるわけじゃないですか。結果的に、そこに対して手を抜いちゃったら不真面目な場合と変わらないと言うか。作品が必要とするなら、サボることに対しても遊ぶことに対しても真面目にいれた方がいいし。

植田:ええ。

山崎:だから今回、いろんな作品を同時にやることで、そういうことを知れるといいなとも思ってます。もちろん真面目な人が多いから、こういう無茶な企画がやれて、それはホンマにすごいことだなって思ってるんですけど。

渡邊:ある種、いろいろ自分を諦めた瞬間から始まる気がしますね。

山崎:そう思う。

渡邊:あ、無理だわって。

山崎:「3本とか無理」って思うぐらいでやった方が、その人の魅力がそのまま出ますもんね。「やるぞ」っていう鎧を着てしまったら、どれも結局一緒になる。良い意味での不真面目さというか余裕というか、そういうのが獲得できると、やってよかったなって思える公演になる気がするんですよね。
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(パート3へ続く。 ※近日公開予定)

↓前回のパート1はこちらから。