9月、浅草九劇にて行われる悪い芝居の演劇フェス『悪いけど芝居させてくだ祭』。
稽古真っ只中の酷暑の夜、3人の演出家による特別鼎談が都内某所にて決行された。
6日間5作品を一挙上演するこの無謀な企画にて、新作1本と旧作二人芝居2本の計3作品を発表する山崎彬、そして今回悪い芝居として演出家デビューする看板俳優・渡邊りょうと新人・東直輝。3人は果たして何を語るのか? そして、それぞれの作品はどのようなものになるのか? 全3回にわたる特別鼎談、そのパート1!!  (進行:植田順平)

東直輝 作・演出『夢を見た後見てる夢』
植田:まずは、それぞれが演出する新作のことから聞いていきたいと思ってます。最初に、書くとっかかりになったもの、要は着想ですね。実は結構温めてたとか、またはこういういきさつで閃いたとかあれば、教えていただきたいです。まずは東くん。

東 :僕が演出する『夢を見た後見てる夢』の構想を考えついたのは、『罠々』の大阪公演の時期に、1日だけ、深夜3時ぐらいになっても寝付けない日があって、その夜に突然思いつきまして。だから全然温めてたとかではなくて。

植田:東くんは悪い芝居に入る以前からも作・演出はしたことあるんだよね。

東 :はい。東京に第27班っていう劇団があって、そこの作・演出の人が書く本と演出が好きなんですけど、僕、自分が書くときはその方の影響をすごい受けてて。

山崎:お名前は何て方?

東 :深谷晃成さんっていって。年も近くて、その人も今回の僕の作品みたいに、ツーシチュエーションでやったりとかが多くて。更に深谷さんの場合、面白いまま進んでくんですけど、終盤で1個新たな情報を入れることによって、今まで観てたものの景色を全部変えるみたいなことをしてらして。そういう構成や展開にはすごい影響受けてます。

植田:物語的には何かあります?

東 :『君の膵臓をたべたい』っていう小説があるんですけど、その中に、病気で死ぬ時期が決まってるからと言って、そこまでに死なないって思い込んでいたみたいな言葉があって。小説読んだ時に、自分も大学1年生ぐらいの時から、明日死ぬと毎日思って生きてきたんですけど、そのことが思い出されて、ってか改めて思って。そういう、自分が日頃思っているけど表には出て来辛いことは載せていきたいなと思いました。

山崎:素敵なタイトルだなって思うんだけど、これって今回の祭で作・演出をやるって決まってからつけたんだっけ?

東 :そうです。決めなきゃいけないって言われて。

渡邊:情報出す締切ってこと?

東 :はい。

植田:『夢を見た後見てる夢』ってタイトルにはどういう思いが込められてるんですか?

東 :夢って、寝てる時に見る夢と追っかける夢、ふたつあると思うんですけど、それを一緒に入れたら、お客さんはそれぞれにどっちの夢を当てはめるのか、とか…。

山崎:結構、手の内晒すねぇ!!

一同:(笑)。

東 :やばい! 喋りすぎたかも!

山崎:あとさ、顔合わせで配った台本のさ、タイトル、書き間違ってない?

植田:あのね、

東 :変えたんすよ。

山崎:変えた?

東 :伝えたはずが、

植田:チラシに反映されなかったんですって。

山崎:俺1回も聞いたことないよ、それ。

渡邊:俺も知らない。

東 :僕は変えた気に。

山崎:誰に言ったの?

東 :山崎さんに。

山崎:聞いた覚えないなー。

東 :伝えた気になってて。

山崎:でも最後、チラシの校正で回したときとかに言えばよかったのに。

東 :気づかなかったんです。

植田:それは、オメーが悪い。

渡邊:正式には何てタイトルなの?

東 :『夢を見た後に見る夢』です。

渡邊:ああ…。

東 :漢字とひらがなの順番も、

植田:キレイね。

東 :お客さんの心、想像の余地を残せるタイトルがいいなと思ってて、で、ベストはこっちだって、僕、思いついて感動して終わっちゃったんだと思う。

山崎:じゃあ正式タイトルは、チラシに載ってるんじゃなくて、

東 :『夢を見た後に見る夢』です。だからこれを読んでくれた人だけが、真のタイトルを知れるっていう仕組みにしようかなと。

植田:出演者はどういう選び方だったんですか?

東 :元々、中西さんは悪い芝居を観てる頃から、めっちゃ好きで。他の人も好きですけど飛び抜けて好きだったので。自分で書く時ってたぶん、好きな人でしか書けないから、中西さんにはやって欲しいなと思ってて。で、あとは誰かなと思ってたら、

山崎:好きな人あげてったら?

東 :いやもう、そこから好きな人とかじゃなく。

渡邊:好きな人じゃないんだ。

植田:俺は好きじゃない三人のうちの一人か。

東 :名前浮かんだ、駒としての。

植田:おい。

東 :それは冗談ですけど、二組の男女の四人芝居にしたくて最初中西さんが決まって、バランス考えてこうなりました。

植田:今その稽古多少進んで、どうです? 思ってたようなものが出来つつありそうです?

東 :思ってたもんと全然違うことになりそうです。

植田:へー。

東 :でも逆に良かったです。僕も、それぞれの素敵なとこを引き出せてなくて、毎日発見して足していって変わったわけなので。

植田:最後に、みどころを。

東 :舞台上だからこそ素敵みたいな要素でなく、四人の日常の素敵なところだけを乗せれたらいいなと思ってます。観た時に「ああこういう人間なんだ。いいな。」みたいには思って欲しい。

植田:うん。

東 :あと、『罠々』でもそうですけど、お客さんの想像力を信じ切って、こう思わせて全然違いますみたいなのが僕は好きなんで、悪く言えばお客さんを小馬鹿にした感じっていうのが終始続いて行くので、まあそこに弄ばれた感といいますか、良く言えば「そうくるか」みたいなところを楽しんでもらえたらなと。

植田:思惑通りに引っかかってもらえたら嬉しいなと。

東 :観たまんま感じ取ってもらえればイケるかなと今は思ってます。

山崎:りょうくんの作品にも言えるけど、出るメンバーは同じでも、書く人違うからいつもと違うものが見れるのが面白いよね。

渡邊:そうですね。

山崎:それは楽しいんじゃないですかね。

渡邊:しかも2本立てですしね。
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渡邊りょう 作・演出『それはそれとした』
植田:『それはそれとした』は、前々から温めてた構想があったの?

渡邊:いやもう全然ないです。

山崎:そもそも作家さんではないもんね。

渡邊:東は書いたことも演出したこともあるみたいですけど、僕はほんとになくて。でも、書いといた方がいいよみたいなことは、いろんな人から言われたりはしたことがあって。だからそれはちょっと調子乗った部分があって。

植田:調子は乗っていきましょう。

渡邊:ただ実際書くってのはほんとに辛いことだなと。

山崎:当初りょう君に「秋の公演こんなの考えてるんだけど興味ありますか」っつって。「発表は何日までにしたくって」って言ったら「興味はあるけど一旦考えさせてくれ」っつって。そしたら次の日くらいに「プロットができました」とか言ってきたから、これはその気になってるから「いいんじゃん!」つって「やります!」と言ってもらおうと思って。

植田:手のひらで転がしていた、と。

山崎:でもそれは、いいことなんだよ! 考えたプロット話すのが楽しそうだったから!

渡邊:確かにそうで、やりたいなっていう気持ちが生まれたっていうか。

植田:ほお。

渡邊:この企画の話もらったその日の夜、『罠々』稽古中だったんですけど、京都の帰り道に色々考えて。果たして自分が書くなら何を書くのかとか、シチュエーションから考えてみようかとか、誰の作風ぽいものになるのかなあとか。入り口が全然分かんないから色んなことを考えたんですよ。

植田:うんうん。

渡邊:考えてくうちに、これこういう感じでやってみようかなっていうのだと書ききれないなと思ったんです。それっぽくってことでやろうと思っても、自分のモチベーションが上がらない。じゃあ演劇とか作品を書くとかって考えずに、自分がなんだったら心が動くのかってものから考えて。

植田:うん。

渡邊:あ、これだったら俺なんか、こういう気持ちになるなみたいなこと考えたあと、そこからじゃあ、そこに向かっていく為にどういうことを起こせばいいんだろうなみたいなのをいろいろ想像して。でポンポンポンポンって置いてったらなんか、プロットがその日に最初から最後まで一応はできたんですよね。で、その日のうちに書いてみようかと思って。パソコン出して冒頭を書こうと思ったら、意外とそれで10ページくらい書けて、それが楽しくて。

山崎:僕も最初は大学の卒業の時に、劇場はあるけど書く人がいない。だからちょっと書いてみよっかなってやってみたら書けて、そこからなんで。だからそれは、1日目でそういう動きになったのはめちゃいい流れだと思う。

渡邊:そこで、なんも発想が浮かばなかったら、書いてないですね。やってなかったと思う。

山崎:『それはそれとした』読んで、最初に気になったんですけど、これは自伝的な部分はあるんですか?

渡邊:結局自分から出たものではあるなとは思うんですけど、基本的にはフィクションです。まず最初に思いついた着想があって、じゃあそれはどのタイミングにしようかなってところから。

東 :そうなんだ。

渡邊:でも結局僕が書きたいのってそういう出来事だったりとかっていうよりは、その状況に置かれた人物の価値観みたいなものを、たぶん見せたいから、ある種これはベタな話でもあるんですよ。

山崎:うん。

渡邊:そこの中で、どういう風に物事を捉えるかっていう人物ってところに、価値、可能性があったらいいなと思って書きました。

山崎:稽古してて思うんですけど、全部の作品の中で1番多くを語らないタイプのものだと思ってて。だからその分、文面通りのセリフで吐いちゃうと、ベタなだけの話にはなるよね。

渡邊:はい。だから、そのままだとサブイです。

山崎:だからこそ、悪い芝居で僕の作品にいつも出てる役者たちの、いつもじゃ見れない芝居を見れるとは思うから、楽しいですよね。苦戦もするだろうし。

渡邊:あと着想で言ったら、リトルミスサンシャインとか、そういう映画に出てくる人物っていうか、虐げられるような存在の人たちが、間違ってもなんでもいいから誰かの為に何かをするっていうのが素敵だなと僕は思うんですよ。その行動に至るまでが好きで。だからそういうものが魅力的に描けたらいいなと思ってるんです。周りからは非難されてる行動だとしても、そんなん分かってる、それでも誰かの為に何かをするっていうのは、そこだけを見たら素敵なんじゃないかなとは思うんです。

植田:出演者はどうやって選んだんですか?

渡邊:まあ単純に僕のは家族の話だから、家族を誰でやったらいいかなっていうのは最初に考えて。山崎さん、植田さん、洸生でやろうと。他のキャストも含め、僕がこの人のこういう面が観たいって基準で選んで書きましたね。

植田:もうすでに出てるかもしれないけど、『それはそれとした』の一番の見どころって何ですかね?

渡邊:僕はどちらかというと、冷めたお客だと自分で思ってて。演劇で何が観たいかっていう時に何も欲求が生まれないというか。それを自分が観たいものを作ってやろう、演劇として、っていうことで考えたんですけど、でもやっぱりそれが全然浮かばなくて。どれもなんか冷めた気持ちになっちゃって。

植田:うん。

渡邊:じゃあ冷めた僕が、なんだったら心が動くかなって考えて、結果ベタなものに行き着いたんですけど、そこに何かがあるんじゃないかなと思ってるので、繰り返しですけど、そういう出来事に出会った時の、あるひとつの価値観みたいなものを観てもらって、お客さんはそれに対してどう思うかみたいなとこはすごく興味があります。

植田:感想を見たいみたいなこと? 例えば感想ツイートとか見たいとか。

渡邊:ああ、全然、見たくない。でもまあ、実際作り上げたうえでお客さんの意見は絶対見たいですけど、どうさせたいかって言ったら、やっぱりどんな形であれ、お客さんの心は動かしたいですね。要はだから、渡邊りょうの価値観としてお客さんに触れる部分が一番の見どころですかね。嫌われるかもしれないけど。
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山崎彬 作・演出『純白』
植田:最後に、山崎さんの新作『純白』についてなんですけど、この作品の着想は何だったんですか?

山崎:まず最初には、本公演とかではやりにくい、こういう企画公演だからこそ挑戦できることを単純にやりたいなって思って。演劇としての可能性は感じるけど、どうなるか自分でもわからないものをやりたくって。ほんと明日にはどうなるかなんてわかんないなと、自分自身立ち止まって考えるキッカケもあって、そんな中で人は僕の作る何を観たいのか、僕は何を観てほしいのか、はたまたもう何も観たくもないのか、そういうとこを行ったり来たりして、うだうだ考えて、真剣に真剣に考えて、結果、自分の中であと半分なのか三分の二なのか今回が最後なのかわかんないけど、ターニングポイントとなる作品が書けたと思っています。

渡邊:それが、女子高生……?

山崎:銀杏BOYZの曲だとか、古谷実の漫画だとか、野島伸司のドラマなんかと、いわゆる青春時代に青春をまっとうせずに触れてきた人間ですけど、あの年代の女の子って、僕は男子校出身なのでもう未知なんです。ドラマとか漫画とか映画とか、変な話、AVとかでしか知らないんですよ。女子高生というものを。

植田:はい。

山崎:これは、ある意味女子高生モノっていうは完全未知のファンタジーって思えたっていうか。今の僕が挑戦すべきことだなと思った。みんなも絶対今後の役者やってく糧として、女子高生をやったことがあることが誇りになる(笑)。

一同:(笑)。

山崎:あと、柚貴ちゃんが純白って名前の女子高生で主役をやるんですけど、彼女が悪い芝居では1番女子高生に身なりも年齢も近いのに1番遠く見えるようなものにしたくて。そうするためにはおっさんで友達を固めるという方法を思いつきました。こないだ衣装合わせをしていただきましたけど、とても似合ってましたよ。みんな可愛かったよ。

渡邊:(笑)。

東 :見たい。

渡邊:はぁ…。俺はまだ研究が必要だ。

植田:俺も。

山崎:この二人は女子高生で純白の友達です。あと1人友達がいる。しかも結果的にそうなったとしても、コント的に見える演じ方ではなく現役女子高生が女子高生の役ふられたぐらいに見えるものをおっさん達に求めてる。なので街中で見ても女子高生をガン見してくださいと。

渡邊:ええ。

山崎:見ちゃう?

渡邊:今ね。見ます見ます。見ます。

植田:見ます。見ますよ。

山崎:仕事でね。

植田:仕事でね。

渡邊:そうです。

山崎:仕事で。

植田:飽くまで仕事で。

山崎:みんな、共学とかですか?

植田:共学。

渡邊:共学すね。俺でも全然、同世代の時に同世代が1番嫌いなタイプの学生だったから。

東 :うわあ、1番もったいないやつや。

渡邊:恋愛とかがはびこるじゃないですか。中高ぐらい。でも僕遅れてたから知識がないです。びっくりするぐらい。

山崎:僕は年齢的には、援助交際、ガングロ、ルーズソックス、プリクラ、たまごっちみたいな世代で、当時はほんとに、うるさい怖い目合ったらキモいって言われる気がする、って思いながら男子校に通う生徒でした。だから関わらないようにしてました。だから僕自身は制服っていうものにエロとか神聖なものを感じなくって、ただでもすごく遠くの方で気になる存在ではあったわけ。女子高生っていうものが。ある意味それは、見ると壊れてしまうから見ないようにしてるんじゃないかなとか、逆に思って。だから、とてもリスペクトして女子高生に挑もうと思ってます。

植田:見どころは何になるんでしょう?

山崎:女子高生女子高生ばっか言ってますけど、僕の今回やりたい手触りとしては、人を好きになるってどういうことなのかな、こうかな、やっぱわかんないな、でも好きだなってだけの話を書きたい。「好き」が最も呼吸や食事に近かった時期ということで女子高生を選んだ部分もある。色んな好きが出てくる芝居だと思う。ラブコメっすね。

渡邊:ラブコメ。

植田:ラブコメディ。

山崎:ま、この世のすべての芝居はラブコメっすからね。
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